リアル☆タイムスリップ
 角屋の玄関で蜥蜴丸を受け取り、いそいそと外に出る。
 まだ門を潜り終える前に、早速抜いてみる。
 すら、と刀身を半分ほど引き出したとき、いきなり背後から声がかかった。

「おい、こんなところで何してる」

「うわっ」

 ついでに、ぽん、と肩を叩かれ、正宗は驚いた。
 ざ、と少しだけ門柱を削り、蜥蜴丸が地に落ちる。

「おいおい、そんなに驚くことか? しかも刀を落とすなんて、武士としてあるまじきことぞ」

 呆れたように言うのは、やたらと顎の張った、口のでかい男。
 え、と正宗はその顔を凝視した。

「こ、近藤……局長」

 呟くように言うと、相手は白い歯を剥いて、にっと笑った。
 闇に、歯だけが浮かび上がる。
 この態度から見て、正解のようだ。

「も、申し訳ありません。少し酔いが回ったもので、夜風に当たろうかと呑気に考えておりましたもので」

 これで腹を斬らされたら堪らない。
 はたして有名な『局中法度』が本当にあったのか、はたまたこの時期に出来ていたかは定かでないが、とりあえず適当に言い繕い、正宗はがばっと頭を下げた。

「はは、まぁ今日は無礼講だしな。が、今日だけだぞ。気を引き締めていけ」

 笑いながら、近藤は刀を拾った。
 そして抜き身を掲げる。

「ほぅ、いい刀だ。おぬし、身体はでかいが、ひょろっこいな。このような刀、扱えるのか?」

「は、い、いえ。あの、俺……それがしは、さる神社に仕えていましたものの、その、此度の募集に呼応いたしまして、おっつけ駆けつけたもので」
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