リアル☆タイムスリップ
第三章
 睨んだ通り、あの後芹沢襲撃が行われ、長州の仕業として大々的に葬儀も行われた。
 隊の頂点に立った近藤は忙しく動き回り、正宗のような平隊士のことなど忘れたかのようだ。
 息を潜めて気配を殺していたからかもしれない。

 元々侍と現代人とでは、持つ気そのものが全然違う。
 鈍感な現代人には、殺気も気配も感じることなど出来ないのだ。

 その鈍い気が良かったのだろう。
 誰の心に引っかかることもなく、影のように日々を過ごしていた。

「いい加減に帰りたい……」

 庭の植え込みの陰で、ぼそりと正宗が呟いた。
 あれから何度も蜥蜴丸を抜いてみたが、何も起こらない。

『泣き言か』

「泣き言も言いたくなる。風呂に入りたい!」

 何よりそれが辛い。
 何故よりによって夏の盛りに飛んでしまったのだ。

 男ばかりの屯所は、あり得ない臭気に満ちている。
 虱や蚤が当たり前に湧いている状況は、現代人には耐えられない。

「こんなもんで、よくも色恋が芽生えるよな!」

 新撰組隊士が現代にタイムスリップしてくるならともかく、現代人が昔にタイムスリップなどしてしまえば、色恋どころではない。
 それ以前の問題が山積みであろう。
 何せ衛生観念が全く違うのだ。
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