リアル☆タイムスリップ
「あ……桂や。え、あいつ、どこ行く気や?」

 正宗の後ろで、山崎がこそりと言った。
 あれが、と正宗も桂の姿を目に焼き付けた。
 しっかり覚えないと、全ての感覚が鈍い現代人は尾行もままならない。

「後を尾けます」

 とにかく見失ったら終わりなので、急いで正宗は外に出た。
 これといった特徴もないので、目で追うしかない。

---確か、誰かのところに行ってて遅れたから助かったんだったな---

 しかし、歴史の偉人の生の姿を見れるというのは貴重な体験だ。
 まぁ大体が想像しているイメージよりも大分落ちるのだが。

「あれが桂かぁ。ここを今歩いてるから、あの人は明治まで生きられるんだよな」

 そう考えると感慨深い。
 あのまま池田屋に留まっていれば、今日で桂の命は尽きていたはずだ。

「ていうか、ほんとに一度池田屋に行ったんだな」

『強運な男よな』

「何かを察知して逃げたって説もあるよ」

『まだ山崎しかおらぬじゃろ。奴は監察方のエキスパートぞ。そんな気配、微塵も見せぬわ』

「つまり、ほんとのほんとに単なる偶然か」

 何かを成し遂げる者というのは、危機を脱する力もあるものだ。
 ふと気付けば、四条通りの人混みに紛れて、桂の姿はなくなっていた。

「見失ったぞ」

『まぁ行き先はわかってるんじゃろ』

「思い出せないけど。まぁいいか。桂が中座したのは本当だった、と」

 とりあえず、正宗は屯所のほうに歩き出した。
 まだ近藤らは屯所にいるのではないだろうか。
 総大将が出張るのは最後って相場は決まってるしな、と思い、屯所に戻ったわけだが。
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