リアル☆タイムスリップ
「帰ってくるんじゃなかった」

 屯所には足の踏み場もないほど隊士が転がっている。
 皆脂汗を浮かべて腹を押さえているのだ。
 ただでさえ臭い屯所の空気が、正宗にはまるで色がついているように感じられた。

「局長は?」

 中に入る気も失せ、近くに転がっている隊士に聞いてみる。

「きょ、局長は……すでにお出かけに……」

「入れ違いか」

 正宗は急いで踵を返そうとした。
 そこで、懐にあるものを思い出す。

「そうだ。ほらこれ。山崎さんに貰った腹薬だ」

 屯所で隊士の大半が食中りになることがわかっていたので、池田屋で会ったときに貰っておいたのだ。
 が、目の前の隊士は起き上がるのもままならないようだ。
 というか、出動できないぐらいなのだから、基本的に皆動けないのだろう。

「水がいるか」

『土方の薬は酒で飲むらしいぞ』

「そんな薬があるわけないだろ」

『ま、この時代の薬なんぞ、ほとんど気の持ちようだからのぅ』

 じゃあこれも効能は怪しいのでは、とちらりと思ったが、気の持ちようなら薬と思えば効くだろう。
 水を汲み、正宗は隊士に薬を与えた。

 ところが一人の世話を焼くと、我も我もとなる。
 まして皆地獄の苦しみの中にいるわけだから、薬となると群がるのがオチだ。

「大江。わしにもくれ」

「わしも」

 わらわらと隊士が群がる。
 異様な熱気と臭いで、正宗は気が遠くなった。

『ほれ、しっかりせぃ。薬はそう大量にない。ちゃっちゃとやれば、すぐなくなるわ』

 蛍丸の叱咤激励を受け、正宗はとりあえず、あるだけの薬をわけていった。
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