リアル☆タイムスリップ
「あ、あそこで……。あそこの二階に、尊攘派が集まってます。山崎さんが中に入り込んでますんで、戸を叩けばすぐに開けて貰えます」

「そうか。……くそ、こっちか」

 ちょっと近藤が周りを見た。
 近藤隊は少数だ。
 反対側の四国屋方面に土方隊をやってしまった。

 そちらは近藤隊より大人数。
 やはり四国屋のほうが怪しいと睨んでのことだったのだが。

「仕方ない。行くぞ」

 さすがに本物の剣客は肚が据わるのも早い。
 少数であっても、近藤はすぐに池田屋に向かった。

「局長。わたしは土方さんに知らせます」

 正宗が声を掛けると、うむ、と近藤は頷いた。
 内心ガッツポーズを作り、正宗はまた脱兎の如く駆けて行く。
 これで合法的に戦線離脱だ。

『ずる賢いというか何というか』

「うるさいよ。それに歴史の中には初めに池田屋に乗り込んだ新撰組隊士の名はばっちり残ってる。まぁ若干ズレはあるけど。間違っても大江 正宗なんて名はないよ。こうなるのも必然」

『そうじゃな……。今のところ、何らおかしいことなく歴史は動いておる』

「何か微妙だ。こうも俺がここにいることが不自然でないとなると、やっぱり俺のタイムスリップも必然だったってことを嫌でも自覚せざるを得ない」

『そうよな。現代の行方不明者の何人かは、どこぞの時代に飛んでしまった者かもしれん。何も正宗だけではなかろう』

「そんな慰めいらない」
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