リアル☆タイムスリップ
「ふぅ」

 社務所で宮司に挨拶をし、通された一室で正宗は持ってきた袴に着替えた。
 家では基本的にいつも袴で過ごしているので、洋服よりも落ち着く。

『その格好だと、わしを腰に帯びても違和感なかろう』

「いや、今の時代はおかしいから」

『むむぅ。コスプレのふりをすればいいではないか』

 この刀は見かけに反して現代の文化に通じている。
 暇にあかせて、しょっちゅうほっつき歩いているからだ。

『というのは冗談としてもだな、何となく、わしは常に身に帯びておいたほうがいいと思うのじゃ』

「……やっぱりそう思うよな」

 この気の乱れは普通ではない。
 正宗にとって、蛍丸はお守りでもあるのだ。

「剣舞用とでも言えば、何とかなるかな」

 祭事で剣を使うこともあるので、神職の者が刀を持っていてもおかしくない。
 もちろん今は、それらは皆作り物だが。

 蛍丸を腰に差していても、抜いてまじまじ見ないと本物とはわからないだろう。
 このままどこかに行くこともないし、と正宗は蛍丸を帯に差した。

『うむ。久々じゃ、この感じ。昔は隣に脇差があったものだが、今はわしが脇差じゃなぁ。折角おぬし、大江氏なのだから、鬼切丸ぐらいを横に差して欲しいものじゃ』

 人の腰に納まって、蛍丸がはしゃぐ。

「人の腰に納まるのは、そんなに楽しい?」

 ずっと祠の中に安置されていたから気付かなかったが、やはり刀たるもの腰に帯びられるほうがいいのだろうか。
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