息を止めたくらいでは
第1話『バイト』
「立ち仕事ばかりのこのバイト終わりにさ、自転車でこの坂下る時、1番好きな時間」
「分かるよ、座っただけでも気持ちいいのに、足を伸ばせる感じ、ね」
「下り坂だからね」
「夜風が涼しい」
「あぁ、あの赤信号渡った時に車に轢かれて死なないかなあ」
「死にたいね」
死にたい
至って健康な俺たちが、決して口にしてはいけない言葉なのだろうということは、心のどこかではわかっていて。
それでも、言うのを止めようとしないのは、死にたい願望を捨てきれないからで。
「でもどうせ死なないよ、私たち」
「知ってる」
「不老不死でもないくせに、私、死なないってわかる」
「うん」
「どうしてだろうね。こんなにも死にたいのに」
「うん、知ってる」
池杉はそう言って、俺を追い越した。
ペダルを漕ぐ回数が俺より多かった。
ギアは多分俺の方が重いんだ。
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