甘え下手を治すには溺愛を
しばらくして、裕一の携帯が鳴った。
誰だろう。
何気なく見た表示は『千紗』
ドキリとしてとっさに携帯を取る。
「なんだ?電話か?」
浩大は気づいてないみたいだ。
「出ていいぞ。」なんて簡単に口にする。
メールじゃなくて電話だ。
千紗から電話なんて………。
「………もしもし?」
「裕?ごめんね。急に電話して。
あの……今、電話してて大丈夫?」
確実に漏れ聞こえているだろう浩大をチラリと確認する。
電話してて大丈夫かの確認だと思ったような浩大が指でOKサインを出している。
千紗って……気づかないものなんだろうか。
「あぁ。まぁ少しなら。」
言葉を濁すと電話口から緊張気味の声がした。
「あ、あの……あの………………。」
しばしの無言。
電波が悪いのかと心配になりかけたところで衝撃な言葉が聞こえた。
「会いたい…………。」
な…………。
隣の浩大を見ることができなくなり、ギュッと手を握り締めた。
強く握り過ぎた手のひらに痛みを感じるが、そんなのどうでも良かった。
「ご、ごめんね。今さら。
急だし、迷惑だよね。」
切なくなる声が携帯を通して耳元で聞こえるのが耐えられないのに、まだ聞いていたい気持ちにもなる。
急に袖をひっぱられ、忘れ去っていた浩大の存在を思い出した。
コンコンと机をたたいた浩大の指の先、何か書かれたメモ。
『俺はいいから女のとこ行ってもいいぞ。
いつものお返しってやつだ。』
「……………分かった。行くから。」
電話を乱暴に切って、浩大を見ずに告げる。
「わりーな。」
「あぁ。いいっていいって。
でも仁木にしては珍しいな。
女からの連絡………。」
浩大の言葉は最後まで聞かずに飛び出す。
なんで、なんであそこまで聞こえてるのに千紗って気づかないんだよ。
だいたい千紗は…………なんなんだよ。