甘え下手を治すには溺愛を
44.裕:初めて会った時から

「どこにも行かないでね。
 私も行かないから。」

 千紗のその可愛らしい言葉にグッと胸が熱くなる。
 千紗の方が俺のこと何も知らなくて、こんなどこのどいつかも分からない奴に……。

 そう思うと申し訳なくなる。

 それでも今ここで言う勇気はなかった。

 それどころか……まだ俺は千紗を…千紗の全部を手に入れたいと思ってる。

「好きだよ。千紗。」

「うん。私も。」

 本当にさっきはもうやめにしようって思ってた。
 それなのに………。
 俺はどんだけガキなんだ。

 でも…………。
 俺の腕の中で、全てを委ねている千紗。

 何も知らない俺を彼氏の浩大よりも信用してアパートに入れてくれた千紗。
 だからこそ大切にしたいという思いもあって、その狭間に揺れる。

「どうして俺はアパートに入れてくれたの?
 俺、思いっきり怪しいでしょ?」

「んー。だって。
 裕は大丈夫って思ったから。」

「ダメでしょ?
 大丈夫じゃなかったんだから。」

 自分で言ってりゃ世話ないわ。
 と、心の中で自嘲する。

「ん?大丈夫でしょ?」

 大丈夫って……。
 だからどこまでお人好しなんだって話。

「ちゃんと大切にしようってしてくれてるの分かるよ。
 裕の優しさがよく分かるもん。
 だから大丈夫。」

 そう言った千紗が胸に顔をうずめる。
 柔らかな髪がくすぐったい。

 俺、優しくなんてない……。

「こんなにかっこよくて……綺麗な指で……色っぽくて、ドキドキするけど。」

「綺麗な……指?」

「うん。
 初めて会った時から綺麗な指だなぁって。
 その指に触れられたと思うと、それだけで恥ずか………し……ちょ、ちょっと裕?」

 千紗は可愛くて……俺、馬鹿だ。

「絶対に千紗を大切にする。
 だから俺のことを……信じてて。」
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