甘え下手を治すには溺愛を
49.千紗:仁木くん

 裕の後から来た女の子。
 若そうで派手な感じで、でも長身でスラッとしている裕と並んでも引けを取らない存在感を放っていた。

 裕のことを「仁木くん」と呼んだ声にちょっと前の記憶が鮮明に蘇って………そんなまさか……。
 そう思っていたところに確信をもたらす人物が現れた。

「あれ。仁木……と、千紗に玖美ちゃんも。
 なんだ?なんだ?」

 1人楽しそうなのは浩大。

 やっぱりそうだったんだ。
 「裕」は「仁木くん」
 前に浩大から聞いたことのある名前。

 浩大のバイト先の子で、家庭教師に行っている『高校生の仁木』

「高校生なのに名前の通り曲がった事しなくてよ。
 高校生男子なら遊べよー!って感じなのにさ。
「仁」って漢字に「木」って名前で本当にそのままって感じ。」

 そう話していたことを思い出す。

 裕は私の方を見てくれなくなって、目を伏せたまま「みんな、俺ん家に来てくれないか」と言って歩き出してしまった。

 浩大は1人楽しそうに歩き、その後ろを玖美ちゃんと呼ばれた子が歩く。

 ずいぶん離れた後から千紗はついていった。
 ぼんやりして何を考えていいのか分からなくなる。


 不意に抱きしめられてハッとした。

「ごめんね。もう少しだから。
 もう2人は家に行ってる。
 ちゃんとするから聞いて欲しい。
 だから……来て。」

 手を離した裕の顔は悲しそうとも寂しそうとも違う………でも前にも見た消えてしまいそうな顔に似ていた。

 頷いてついて行くことしか出来なくて、何も声をかけられなかった。
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