甘え下手を治すには溺愛を
53.千紗:元凶

 悲しい集まりの元凶は浩大なのに、悪びれる様子のない浩大を思わずはたいていた。

 パチンッ、と乾いた音は虚しく部屋に響いた。

「私も……。浩大と別れたい。」

「あぁ。別に構わないぜ。
 どうせつまらない女だ。」

 浩大は冷めた表情で何も感じていないみたいだ。
 悔しい……。

「連絡先も消して。」

 消えそうな声が情けない。
 その声にハハッと笑われた。

「お安い御用です。」

 おちゃらけている浩大に黙っていた裕が口を開く。

「家庭教師ももういいから。
 それも親に言ってある。
 俺がその気になれば、浩大よりいい大学行けるし。」

 さすがにこれには驚いた表情を浮かべたけれど、すぐにいつもの浩大に戻ってしまった。

「ハハッ。いいバイトだったのによ。
 しゃーねーか。
 仁木の……連絡先も消しとくか?」

 笑ってる浩大が「あぁ頼む」っていう裕の言葉にますます笑う。

「ま、別の女に、別のバイト先を探すだけさ。
 じゃーな。」

 カフェに来た時と同じくらい軽い足取りで裕の部屋を出て行った。

 沈黙のあと「はーぁ」と、長いため息をついた裕がベッドに崩れるように腰を下ろした。

 千紗もそれが合図のようにその場に崩れ落ちてしまった。
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