甘え下手を治すには溺愛を
58.裕:その時から
思えば俺はその時から千紗のこと……。
ハハッ。名前しか知らないどこの誰だか分からない奴に……。
俺こそ小学生みたいだろ。
驚いている千紗に話を続ける。
あと少し話せば、もう全てが終わる。
「ずいぶん経ってから浩大が家で「新しい女ができた」って話の中に千紗が出てきたんだ。」
当時のやりきれない思いが蘇りそうになって、手を握りしめる。
手のひらの痛みが自分を正気でいさせてくれた。
「俺、何もできなくて、浩大に俺の周りをぐちゃぐちゃにされてばっかでさ。
千紗のこと大切にしてるんなら、それでいいと思ってた。
なのに…………。」
何もできない俺は浩大がうらやましかったんだ。
思えば俺は浩大になりたかった。