甘え下手を治すには溺愛を
66.裕:思い描いていた未来
「おかえり。」
千紗が帰ってきた。
すぐに抱きしめると「もう」って困った声なのに嬉しそうな千紗にキスをする。
「お風呂にする?ご飯にする?
それとも………俺?」
からかいの言葉を投げれば赤い顔をした千紗が「裕にする」なんて言うから堪んない。
「ダメー。
ご飯食べてお風呂に入ってから。」
俺だってすぐにでも……って思うけど、千紗は可愛くて途中で離したくなくなるから、お楽しみは一番最後!
「もう。なら聞かなきゃいいのに。」
ふくれっ面の千紗が可愛くて、ついキスをしてしまう。
やっべ。だから止まんないって。
「ママおなかしゅいた。」
「あ、うん。ごめんね。
ご飯しようね。」
急に現実に引き戻されて、つい千裕(ちひろ)をにらむ。
「ママー。ちーもチュー。」
これ見よがしにキスをせがむ千裕に大人気なく嫉妬する。
「千紗ー。俺にもー。」
「あぅーあぅー。」
「はいはい。ごめんねー。
紗裕(さゆ)もミルクですねー。」
紗裕に出てこられたら引っ込むしかない。
なんとなく千裕を見るとプイッとそっぽを向かれた。
「なんだよ。ちー。俺の奥さんだぞ。」
「ちーのママ。」
「はいはい。もう喧嘩しないの。
裕が働き始めたら2人ともを朝から預けるなんて……私、仕事辞めてもいいんだよ?」
俺が働いて帰ってきたら千紗がご飯を作って待ってくれてて……。
ものすごくいい光景なのに「ちーママといたい」っていう千裕の声に邪魔される。
「ダメ!そしたら千紗はちーとずっと一緒なんでしょ?
そんなの耐えられない!」
クスクス笑う千紗がちょっとだけ憎たらしい。
だってこの笑い方、俺のこと子どもって思ってる笑い方だ。
「お母さんがまた子ども達の面倒見てくれるって。
久しぶりにデートしましょう。」
そんなこと言う千紗に素直に喜べない。
それで喜ぶと思われてるのが……さ。
それなのに耳元でささやかれた言葉に一気に気持ちが高揚する。
「私も裕に甘えたいから。」
少し照れた顔の千紗を後ろから抱きしめる。
「じゅるーい!ちーもー!」
賑やかで慌ただしい毎日は、思い描いていた千紗との生活とは若干違うけど……。
俺は幸せを噛みしめるように、千紗の頭にキスをした。
これからもずっと一緒にいられるようにって願いも込めて。