彼がメガネを外したら…。
「そりゃ、真面目で熱意のある学生は育ててあげなきゃいけないし。でも、そういえば、下手に着飾ったりしてなくて可愛い子だったな」
「………!!」
史明が素直な感想を放った瞬間、絵里花の中の何かが、プツンと切れてしまった。
『下手に着飾ってない』と言う言葉は、まるで絵里花への嫌味のようにも聞こえた。
化粧も服装も髪も香りも、史明に意識してもらおうとしていた何もかもが、虚しく思えてきてどうでもよくなった。
――もうやめた!!あんなデリカシーのないヤツ、好きでいるのやめてやる……!
翌朝、絵里花は何もする気が起きず、髪も一つ括りでノーメイク、コーディネートすることない適当な服を着て、史料館直通の出入り口から出勤した。
「おはようございます!」
カラ元気を出した絵里花の、いつものように明るい挨拶が史料館の研究室に響き渡る。
「……誰?」
お茶を飲んでいた副館長の目が点になる。いつもとはまるで別人の絵里花を、絵里花だと分からないらしい。
「望月です。副館長」
絵里花がそう言うのを聞いて、副館長は驚いて息を呑み、お茶を気管に詰まらせて激しくむせた。