彼がメガネを外したら…。
さすがに史明も、そんな視線を受けると、自分がどれほど絵里花に似つかわしくないか感じ取ってしまう。史料館や史跡での堂々とした態度は、すっかり鳴りを潜めてしまっていた。
こんな、まるで不釣り合いな二人だけど、絵里花の方は全然気にならなかった。山の中と違って、史明と手は繋げなかったけれど、
――まるでデートみたい……。
と、絵里花の胸はずっとドキドキと高鳴りっぱなしだった。
こうやって史明と街を歩くことができて、絵里花は胸がいっぱいになった。もう二度とないだろうこんな経験を、しっかりと胸に刻みつけたいと思った。
「……い、いらっしゃいませ」
二人がショップに入っていくと、そのアンバランスさに店員も少しギョッとしていた。
「大きな学会で発表するんですから、身なりもキチンとしておかないと」
所狭しとたくさん並んでいる男性用のスーツを見定めながら、絵里花が言った。
かたや史明は、圧倒されて立ちすくむばかり……。
勝手の分からない史明に代わって、絵里花がテキパキと店員と話しをする。そして、史明の体型から一番似合うタイプのスーツを、的確に決めていく。普段からセンスを磨いていることが、こんなときに役に立った。