彼がメガネを外したら…。


できるだけ史明の力になれるように……、絵里花はただそれだけを考えていた。


落ち着かない気持ちを抱えながら、一通り資料に目を通して、段取りをもう一度確認する。それから、さすがにやることがなくなって手持無沙汰となった。


すると、その時だった。三人で連れ立って歩いてくる一人が、見覚えのあるスーツを着ていることに気がつく。

絵里花は、もうそこから視線を動かせなくなった。

少しずつ近づいてくる史明の姿……。

史明の方も、絵里花がそこにいることに気がついたようだ。絵里花は胸をドキドキと高鳴らせながら、彼の姿を見守った。


史明が連れているのは、同年代の男性と女性一人ずつ。史明の学生時代の研究仲間だろうか。
その史明の連れは、待ち合わせをしていた絵里花を見るなり、挨拶をするよりも先に驚いて息を呑んだ。

 それほど、洗練されて綺麗な絵里花は、基本マニアックな人間が集うこの〝学会〟という場では極めて異質だった。


「岩城、この人は!?」


絵里花から視線を動かせない男性の方が、史明に尋ねた。


「この人は、同じ職場で、俺の研究を手伝ってくれている、望月さん」


紹介されて、絵里花はにこやかな極上の笑顔で頭を下げる。すると、それに気をよくした男の方が、嬉しそうに絵里花に応えた。


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