彼がメガネを外したら…。


副館長のこの露骨な反応に、絵里花もいささか腹が立ってしまう。でも、まだ反応してくれるだけマシで、きっと史明に至っては、反応どころかそこにいることにさえ気づいてもらえないだろう。
そんなことを思いながら、絵里花は収蔵庫へと向かった。


「おはようございます」


絵里花がそこに姿を現わすと、いつもは生返事をして、まともに目も合わせない史明が、一度通り過ぎた視線を絵里花へと戻した。


「……君、なんだかいつもと違うな……」


と、つぶやく史明の反応に、絵里花の方こそいつもと違うものを感じ取る。
その〝違うもの〟を追いかけるように、史明のいつもと変わらないビン底メガネを見つめ返した。


「君がこんなに綺麗な人だったなんて、今頃になって初めて気づいたよ」


それは、史明の思ったままを語った、何も飾ることのない言葉――。

絵里花の心臓が突然ドカンと跳ね上がり、うろたえた絵里花は思わず視線を逸らしてしまう。すっぴんの顔が赤くなっていることを隠すのに必死で、古文書から目をあげられなくなった。


――……岩城さんって、ズルい……。


〝そんな気〟は全くないのに、あんなことをサラッと言ってのけてしまう。史明の素直で純粋だからこその言動に、絵里花の心は物の見事に翻弄された。


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