彼がメガネを外したら…。
「本当に、お疲れさまでした。発表、上手くいきましたね」
目を瞬かせて涙をごまかし、絵里花はいつものように明るい笑顔を向けた。
「半分は君のおかげだ。古文書の解読はもとより、城山の調査や、……このスーツのことやメガネのこと。君がいなければこの発表は成功しなかった。……本当にありがとう」
面と向かって改めて、史明は絵里花に向かってきちんと頭を下げた。
一緒に仕事をするようになった当初には、こんな史明は想像もできなかった。こんなにも打ち解けられて、信頼し合えるなんて思いもよらなかった。
……だけど、こうやって同じ目標を目指して一緒に頑張れることも、もう終わってしまう……。
やっとのことで堪えていた涙が、また込み上げてくる。
ここで泣いてしまえたら、どんなに楽になれるだろう。この自分の中に溢れている想いを、今吐き出してしまえたら……。
でも、絵里花は決意して、その綺麗な顔の上に〝満面の笑み〟という仮面をかぶった。
「私の方こそ、こんな大きな学会に連れてきてもらって、本当にいい経験になりました。岩城さんと一緒に仕事をするようになって、古文書の整理の仕方や解読の技術やいろんなこと、たくさん鍛えてもらえて本当に勉強になりました」