彼がメガネを外したら…。
心の中の自分は歯を食いしばって、今にも泣きだしてしまいそうなのを必死で我慢していた。
史明は絵里花の笑みに呼応するように、口元を緩めてニコリと笑った。
「今日は午後の部が終わった後、夕方から懇親会があるけど、君も出席するかい?」
「……え?岩城さんは、出席するんですか?」
随分前に、懇親会には「欠席する」と返事をしていたことを、絵里花は記憶していた。研究発表が上手くいかなかったことを想像して、史明自身、懇親会には乗り気ではなかったからだ。
「うん。そのつもりじゃなかったけど、どうやら話を聞きたい人がまだいるみたいだから。君も出てみるといい。いろんな人と話ができて、いい刺激になるよ。……そう言えば、石井修先生も来るらしい」
「石井修先生って……」
「石井先生を知らないのか?山原出版社の日本史の教科書の監修もしてる有名な先生だぞ?」
「ああ。知ってます!私も高校生のときに使ってました」
「そうだろう?石井先生に会える機会なんて滅多にないから、会っておくといい」
そんなふうに史明から勧められると、絵里花も頷かざるを得なくなる。
「それじゃ、君も出席すると言っておくよ。……あれ?君、まだ昼飯食べてないのか?」