彼がメガネを外したら…。
長机の上、発表で使ったパソコンの横に、絵里花が確保しておいたお弁当が、二つ並べて置いてある。それを見て史明が尋ねた。
「はい。発表の後で、なんだか気持ちが高ぶってて……、食べるどころじゃなくて……」
絵里花はそう言って、史明にまた小さな嘘を吐いた。
本当は史明と一緒に食べたかったからだった。それ以前に、史明の側にいられなくなる現実が切なすぎて、食べることも忘れていた。
「それじゃ、早く食べた方がいい。午後からのパネルディスカッションは、石井先生も出るらしいから」
史明はただ、この学会という場でその探究を深めることに夢中で、絵里花と離れ離れになることになどには、なんの感慨も抱かないらしい。というより、そんな現実は、史明にとってどうでもいいことなのかもしれない。
絵里花は史明の隣で、仕出しのお弁当を開けて食べ始めた。史明は早く食べて、学会の会場へ向かいたいのだろう。息も切らさない勢いで、ご飯やおかずをかき込んでいる。
そんな史明がふと何かを思いついたのか、箸を動きが鈍くなり、食べるのをやめてしまった。
「……メガネを外した俺の顔って、よっぽど変なのか?みんなからジロジロ見られてる気がするんだけど……。そういえば、君も俺の顔を見て、固まるよな?」
それを指摘されて、驚いてしまった絵里花は、ゴクリと食べていたものを呑み込んだ。