彼がメガネを外したら…。
「それは……」
絵里花は、なんと言って説明すればいいのか分からず、言葉を探してしまう。
「……岩城さん、自分の顔、鏡で見たことないんですか?」
どうやら史明は、自分がとんでもないレベルのイケメンだということを自覚していないらしい。
「そりゃ、顔を洗う時くらいは見るけど。メガネを外すと20cm以内まで近づかないと見えないから、物心ついてから自分の顔を客観的に見たことは一度もない」
――なるほど……。
絵里花は妙に納得してしまった。鏡に近づきすぎたら、その麗しさを確かめるのは難しい。
史明が自身のその現実をもっと前に知っていたら、もっと違う人生を歩んできていたかもしれない。
でも、そんな史明には、絵里花は恋をしなかっただろう。今ここにいる史明だからこそ、絵里花はこんなにも愛することができたのだと思った。
「……それは、岩城さんがビックリするくらいとても素敵だからです。岩城さんは、あんまり意識してないと思いますけど、やっぱり〝見た目〟ってある程度は大事なんですよ」
絵里花がそう言うのを聞いて、史明の方も妙に納得している。それほど、スーツを新調して、メガネを外したことの効果を、史明自身一番感じ取っていたところだった。