彼がメガネを外したら…。
「……そうか。だったら良かった。それでなくても普段から怪しいのに、メガネを外してもっと怪しい人間になったら、やっぱりちょっと具合が悪いからな」
――あら。自分が〝怪しい〟存在だって、ちょっとは自覚があるんだ……。
という心の声を表現するわけにはいかず、絵里花は返答に窮してしまう。
「でも、そういうことなら。これからはここぞというところじゃ、メガネを外すことにするよ」
史明が絵里花の説明を肯定的に捉えてくれたので、絵里花もホッとして息を抜く。……でも、絵里花だけの宝物のようだったこの〝秘密〟が、秘密でなくなってしまうのは寂しい気もした。
「視界が20cm以内になるんでしたら、気をつけてくださいね」
絵里花が笑うと、釣られて史明も笑った。
分厚いレンズの向こうの目が優しげに細められるのを見て、絵里花の心に暖かい火が灯る。史明は絵里花の心に、なによりも大切なものを残してくれていると思った。