彼がメガネを外したら…。
「うちの館長が、岩城くんがひと段落したら話がしたいって言ってるんだけど」
「ああ、俺の方から挨拶に行くべきだったのに……」
「大丈夫、私が取りなしてあげる。固くなることないわ」
山川はそう言いながら、重石や絵里花には目もくれず、史明だけを連れて行く。すると、取り残された絵里花に向かって、重石が説明してくれた。
「山川は、国立の古文書館の主任研究員なんだよ。今回の岩城の国立の古文書館への話も、山川が口利きしてくれたらしい」
その事実を聞いて、絵里花の心も騒ぐ。あんな無愛想で見た目も怪しい史明だけど、親身になって彼を気にかけている女性は、どうやら絵里花だけではないらしい。
いずれにしても、史明は未来の上司にはきちんと挨拶をしておかなければならない。これから史明の役に立てるのは、コツコツ古文書を解読するだけの女ではなく、確固たる地位へと取りなしてくれる人だ。
「それに、あの山川は野心家でね。いろいろ上手く取り入ったり、立ち回って、国立の古文書館に潜り込んだんだ。今じゃ大学の同級だった俺たちの中で、一番の出世頭だよ。あの色気もない地味〜な外見からは想像もつかないけどね」
いずれ、史明が順調にそこに行くことになったら、山川はずっと側にいて、助け合える良き同僚となるのだろう。