彼がメガネを外したら…。
そんなことを思うと、絵里花の心境も複雑になっていく。
宴会場の向こう側で、古文書館の館長らしき人に頭を下げて歓談している史明。その様子を見つめたまま、動かなくなった絵里花に、重石が気を取り直すように声をかける。
「いや、だから、この学会って女といえば山川みたいなのばっかりだから、君みたいな美人はホント珍しいんだよ。知り合えて、ホント嬉しいよ」
お世辞でも〝カッコいい〟とは言い難い顔を綻ばせて、絵里花に笑いかけてくれている。そこから醸し出されるチャラさに、絵里花はウンザリした。
――アンタのその顔で笑いかけられても、それこそ気色悪いだけだし。
心の中でそんなふうに詰ったが、曲がりなりにもこの人は史明の友人だ。失礼な態度を取るわけにはいかない。
絵里花もとりあえず、ニッコリと作り笑いを返してはみたが、こんな男と二人っきりにされて、内心は不安でいっぱいだった。
すると、そんな二人のところへ、一人の男が飲み物を片手に近づいて来た。
「おやおや、重石くん。君、抜け駆けしちゃダメじゃないか」
「……ぅえっ…?!」
思いがけないことに、重石が変な声を出して振り返る。思わず絵里花も振り返って見て、ハッと息を呑む。