彼がメガネを外したら…。
「こんなに綺麗なお嬢さんを、独り占めなんてズルいなぁ」
そう言いながら微笑むその人物のさりげない色気、身につける質の高いスーツ。審美眼に自信のある絵里花にも、彼からはただならぬものを感じ取った。
放たれるオーラに気圧されて、何も言葉が出てこない重石を尻目に、その人は絵里花に向かって話しかけた。
「私は文化庁の濱田と言います。あなたは岩城くんの発表の手伝いをしていた人ですね?」
「はい。望月絵里花と申します」
〝文化庁〟と聞いて、それこそ失礼な対応はできないと思い、絵里花は丁寧に頭を下げた。
「見た目の通りに、綺麗なお名前ですね」
ニッコリと笑う余裕の表情に、絵里花も呆気に取られてしまって、なんと言って言葉を返せばいいのか分からない。
「岩城くんの研究で出てきた楢崎氏関連の文書だけど、どこから出てきたものなんですか?もし本物なら、これから文化財としての検証も必要になってくるけど」
濱田の言葉の裏に、ほのかな疑いが漂っているのを感じ取って、絵里花は少しムキになった。
「正真正銘の本物です!文書が出てきた古庄家は、中世から今に残っている古いお家なんです」
その強い語気を受けて、濱田は少し驚いたようにジッと絵里花を見つめ直した。