彼がメガネを外したら…。



「ああ、濱田さんは僕や岩城の大学の先輩でね。文化庁で文化財鑑査官をしてるんだ」


と、重石が絵里花の気を引こうと、横から口を出す。その口ぶりから、〝文化財鑑査官〟なる役職は、さぞかし権威のあるものなんだろうと、絵里花も推測した。


絵里花がおずおずと濱田を見上げると、濱田は優しげで自信に満ちた笑みを、絵里花へと降り注いだ。

史明のように著しく端正な顔立ちではないものの、この濱田の笑顔はどんな女性もドキリとさせる力を持っている。絵里花も、史明への想いは確かなものなのに、例に漏れず胸のざわめきを禁じ得なかった。


「それじゃ、その古庄家文書の話を詳しく聞かせてもらえますか?場合によっては、国指定の重文(※)に指定できるかもしれませんね」


優しげな笑顔はそのままに、濱田は絵里花にそう持ちかけた。でも、絵里花は困惑してしまう。

「……え、それでしたら、岩城さんに直接聞いた方が……」

「岩城くんは今日はとても忙しそうだし、それに貴女は岩城と共同で研究をしてたんでしょう?」


文化庁の偉い人からそう言われてしまうと、絵里花も断りようがなく、


「……私に、分かる範囲のことでよければ」


と、頷くしかない。




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(※ 重文…重要文化財の略)

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