彼がメガネを外したら…。

危機一髪




懇親会は大盛況で学者・研究者、その他関係者たちの話は尽きることがなく、予定の時間を大幅に上回ってお開きということになった。
史明のところにはその時間まで、話をしに来る研究者たちがひっきりなしだった。


一息ついた史明が、辺りを見回して絵里花の姿を探す。
……しかし、どこにいても光を放つように目立つ絵里花なのに、どこにも見当たらない……。


化粧室にでも行っているのかとしばらく待ってみても、やっぱり絵里花の姿が見つけられない。目を凝らして大広間を見渡していると、絵里花と一緒にいたはずの重石が、たまたま目についた。


「望月さんと一緒じゃなかったのか?これから二次会だから、声をかけようと思ったんだが…」

「ああ、望月さんなら、文化庁の濱田さんと話があるって言ってたよ」


それを聞いた瞬間、レンズの向こうの史明の目がマジになった。


「文化庁の濱田さん……って。あの、濱田さんか?!」

「ああ、『あの』濱田さんだ」


みるみる史明の血相が変わって、重石を問い質す。


「望月さんと濱田さんは、どこに行ったんだ?」

「さあ?聞いてないけど?…でも、望月さんは一応二次会に誘っておいた。彼女が来ると、きっと他の男たちも喜ぶだろうから」


重石の言葉を聞き終わらないうちに、史明はその場から走り出した。


< 126 / 164 >

この作品をシェア

pagetop