彼がメガネを外したら…。
ホテルのロビーまで来て、そこにいる人々に目を走らせる。そこでも、絵里花を探し出せなかった史明は、出入り口付近にいるベルマンに尋ねてみる。
絵里花のような女性は見かけなかったとの返答を聞いて、史明は考える。そして、電話をかけてみようと、携帯電話をスーツのポケットから取り出したとき、絵里花からのメールに気がついた。
その文面を読んで、史明の眉間にシワが寄り、唇は噛み締められる。
史明は踵を返すと、走ってエレベーターに乗り込み、最上階のラウンジへと向かった。
絵里花が濱田に連れられて行ったラウンジは、どこにでもあるホテルのラウンジだったが、所々が暖かい照明に照らされた暗めの店内は、とても落ち着いた雰囲気の場所だった。
絵里花はそこで、精一杯言葉を尽くして、古庄家文書のことを説明した。とにかく膨大な量の文書が現存されていること。この学会で発表した戦国期よりも、もっと古い時代の文書もあること。
濱田の方も、さすがに東大卒の文化財鑑査官だ。その卓越した知識量でもって、掘り下げていろんなことを質問してくる。
さすがに込み入ったことに絵里花が答えられなくなると、濱田は優しい笑顔で息を抜いた。
「矢継ぎ早に失礼しました。大丈夫。だいたいのことは分ったから、細かい専門的なことはまた改めて岩城くんに訊くことにしましょう」