彼がメガネを外したら…。



山川に出会った時から、絵里花の中に存在していた小さな不安が的中して、密かに息を呑んだ。

どんなに史明の近くにいて、どれだけ史明を想っても、史明自身が同じ想いを返してくれなければ、恋人同士になれない……。それは、絵里花がいちばん身に染みて分かっている。

だけど、山川だったら……。彼女だったら、研究の頼もしい同士として信頼関係を築けて、その延長として〝結婚〟ということもあり得るかもしれない。


そんなことを考えていると、出口のない迷路に迷い込んだみたいになって、気持ちが動転して落ち着かなくなる。濱田の前だし、きちんと受け答えをしたいのに、頭がぼんやりとして働いてくれない。
そういえば、先ほどから頭がクラクラして、なんだかおかしい……。


「……大丈夫ですか?!少し飲み過ぎましたか?」


絵里花の様子が少しおかしいことに心配して、濱田が覗き込んでくる。


「いえ……、このくらいのお酒で、酔ってしまうことはないんですが……」


とはいえ絵里花も、自分のこの感じは普通の自分ではないと思った。


「もう、そろそろこの辺で……」


こんなところで、この濱田に迷惑をかけることはできない。
それに、もう階下の大広間での懇親会もお開きになって、史明も二次会へ行ってしまうかもしれない。こんなところで一人、置いてけぼりを食らいたくはなかった。



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