彼がメガネを外したら…。



そう思いながら立ち上がった瞬間、足元がぐらついて、絵里花は体を支えられなくなっていた。


「体調が悪かったり、疲れていると酔いの回りが早いこともあります。お部屋までお送りしましょう」


と、すかさず濱田が手を差し伸べて支えてくれる。その手を遠慮したいところだったが、絵里花はまた座り込むわけにもいかず、為すがままに濱田へもたれかかるしかない。


「いいえ、……懇親会には出る予定じゃなかったので、……このホテルには部屋を取っていないんです……」

「それじゃ、とりあえず私の部屋で休んでください。このままじゃホテルまで帰ることは難しそうだから」


「………」


『それには及びません』と答えたかったのに、絵里花はもう言葉さえ発せられなかった。

濱田は手早くチェックを済ませると、絵里花の腕を持ち上げて肩を組み、絵里花を抱えるように歩き始めた。


早く史明のもとへ戻りたいのに、濱田の部屋へ連れて行かれようとしている……。
でも、いくら頭で自分に命令を出しても、絵里花の体は思っているように動いてくれなかった。


ラウンジを出て、エレベーターへ向かうと、濱田がそこにあるボタンを押す。
気持ちは焦るのに絵里花は体を動かせず、その間にもエレベーターはどんどん最上階へ昇ってくる。


< 131 / 164 >

この作品をシェア

pagetop