彼がメガネを外したら…。


――いや、ちょっと…、どうしよう!?


戸惑いが大きくなって、どうするべきなのかも分からなくなる。でも、どうにかしないと、本当に部屋にまで連れて行かれてしまう。


焦る気持ちとは裏腹に、とうとうエレベーターが到着してしまい、扉が開く。

……とその時、その目の前の扉から史明が飛び出てきた。


「あ…!」


史明はすぐに、濱田にしなだれかかっている絵里花に気がついて、驚いたように軽く声を上げた。

史明に誤解されないように、絵里花はこの状況を説明しなくてはと思った。というより、早く史明にどうにかしてもらわなくては、史明はどこかに行ってしまうと思った。

……でも、やっぱり頭が朦朧として、何も言葉が発せられない。


「濱田さん。どうも申し訳ありません。うちの望月がお世話になりました」


史明は絵里花の状況を察して、もう片方腕を取って、絵里花を濱田から受け取ろうとした。


「いや、大丈夫だよ。岩城くん、君は二次会とかもあって忙しいだろう?望月さんは、しばらく私の部屋で休んで行くって言ってるから」


と、濱田は肩を組む絵里花の腕を離そうとしない。


――休んで行くなんて、私、一言も言ってません!!


絵里花は心の中で、必死に叫んでいた。その心の声が聞こえたのか、史明は手を引っ込めるどころか、半ば強引に絵里花を濱田から引き剥がした。


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