彼がメガネを外したら…。
「いえいえ、濱田さんにそんなご迷惑をおかけするわけにはいきません。望月はホテルへ連れて帰ります」
口ぶりは従順を装っていたけれど、史明の態度には断固としたものがあった。
史明は絵里花を引きずるように抱えて、一緒にエレベーターに乗せ、少し決まり悪そうな濱田へと向き直る。それから下へのボタンを押し、扉が閉まる間際に形ばかりの会釈をした。
エレベーターが一階に着いたときには、もうすでに絵里花の意識はなくなっていた。
「おい。しっかりしろ!!」
と、史明が声をかけても、絵里花は融けるように脱力している。
「ああ、もう!……くそう!!」
史明は舌打ちして、両腕で絵里花を抱き上げた。ロビーにいる人々の注目を浴びながらそこを横切って、そのままタクシーへと乗り込んだ。
運転手に行き先を告げ、史明がホッと息をつく。かたや絵里花は史明にもたれかかって、呑気に大きな寝息を立てている。
街の灯に照らされて浮かび上がった絵里花の綺麗な寝顔を、史明はじっと見つめた。
「どれだけ心配したと思ってるんだ……」
そう呟くと、正体なく眠り込んでいる絵里花の体を、もう一度しっかりと抱え直した。