彼がメガネを外したら…。
タクシーがホテルに着いてからも、史明は大変だった。完全に脱力した絵里花を、腕で抱えて部屋まで連れて行く自信のなかった史明は、タクシーの運転手に手伝ってもらって、絵里花を背負わせてもらった。
懇親会の前に、既にチェックインは済ませており、先ほど絵里花のバッグを探って、カードキーも見つけておいた。
「ハァ、ハァ…」と息を上げながら、ホテルの長い廊下を一歩一歩進み、部屋を探し当てて鍵を開ける。
部屋に入って絵里花を寝かせようとしたところ、力の加減が上手くいかず、絵里花は勢いよくベッドへと仰向けに抛られてしまった。
さすがに、その衝撃に絵里花が目を覚ます。
目に映るホテルの部屋、ベッドの横で息を荒げて立ち尽くしている史明……。
その光景だけを切り取ってみると、まるで史明がこれから絵里花に襲い掛かろうとしているかのようだった。
「はっ……!?」
絵里花が驚いて体を硬直させると、史明は絵里花が誤解をしていると思い、先に口を開いた。
「そんなに正体なく眠りこけるなんて、ホントにいい気なもんだな」
分厚いレンズのメガネに隠されて、史明の表情からその感情は読み取れなかったが、その口ぶりは、呆れているというよりも怒っていた。