彼がメガネを外したら…。



続けざまの史明の説教を、絵里花は黙って唇を噛み、じっと聞いていた。涙がジワリと込み上げてきたけれども、唇を噛みしめる力を強めて、必死でそれを堪えた。


すると、そのとき携帯電話の着信音が鳴る。自分のものだと気づいた史明が、ポケットの中のそれを探し当て、電話に出た。


『ちょっと岩城くん!どこにいるの!?』


声の主は女性。酔っているのだろうか。その大きな声は筒抜けに絵里花のところにまで届いて来る。


「ああ、山川さんか。ちょっと望月さんをホテルまで送って来てるんだ」


電話をかけてきたのは、山川だったと分かって、絵里花は思わず耳をそばだててしまう。


『ええ?送ってるって?!子供じゃないんだから、一人で帰らせてもよかったんじゃないの?』

「ちょっと事情があったんだ」

『それで?岩城くんは二次会には来るのよね?!私、岩城くんに研究のことで折り入って相談したいことがあるって言ってたでしょう?』

「行くつもりだ。場所は、さっき言ってた所?」

『そうよ。早目に来てほしいわ。これからのことも話しておきたいし』

「こっちが落ち着いたら向かうよ。…それじゃ」


史明は通話を終わると、気を取り直すように絵里花の様子を窺った。眉を寄せてうつむく絵里花を、気分が悪そうだと感じたのだろうか。


「大丈夫か?」


と、声をかけた。


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