彼がメガネを外したら…。



けれども、絵里花は何も答えられなかった。何か言葉を発すると、涙が堰を切って溢れて来そうだった。


「水でも買ってくるか?」


更なる史明の問いかけに、絵里花は何か答えなくてはいけなくなる。


「……もう、行ってください」


ポツリと出てきた絵里花の言葉を、史明が聞き直す。


「……え?」


「もう私のことはいいですから、岩城さんは二次会に行ってください……」

「でも、君。具合が悪いんじゃないのか?」


今更そんな優しさをかけられると、絵里花の感情はかき乱されて滅茶苦茶になってしまう。酔っているせいなのか、飲まされた薬のせいなのか、この乱れた感情を抑えられなくなる。


「私は『子供じゃない』から、自分のことは自分でどうにかできます!岩城さんは私なんかに構ってないで、早く二次会に行けばいいじゃないですか!!」


「な……!!」


絵里花から放たれた言葉の語気の強さに、史明も思わず反応してしまう。
だけど、絵里花が掛布団を頭から被り、ベッドへ潜り込んでしまうと、史明はかける言葉を見つけられなくなった。

動かなくなった掛布団を見つめ、ため息を吐く。それから、少し名残を惜しむように背を向けた。


息を潜めた暗闇の中で、史明の足音が響き、ドアの閉まる音がする……。史明が部屋から出て行ったことを察すると、絵里花の涙は堰を切ったように溢れてきた。


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