彼がメガネを外したら…。
――……だから、大丈夫……。
今降りしきってる雨だって、いつかは止む。
この想いを諦めてしばらくは心が痛みに疼いても、何年か経てば、また他の誰かを好きになれるかもしれない……。
新幹線の窓枠に頬杖をつき、外を眺めながらそんなことを思っていると、絵里花の心も少しずつ穏やかに和いでいくようだった。
絵里花が出張から戻ってきて、最初に出迎えてくれたのは、普段は忙しくてほとんど姿を現さない史料館の館長だった。
嘱託職員の立場では、おいそれと気軽に話ができるような人ではない。その館長が、まるで絵里花が出勤してくるのを待ち構えていたかのように、声をかけてきてくれた。
「学会は上手くいったようだね。本当に素晴らしい研究で、僕も驚いたなぁ!あの古庄家文書の中に、戦国期の楢崎氏の記述があって、それを学会で発表するまで内緒にしてたなんて、岩城くんも策士だよなぁ」
館長がすっかり誤解しているようなので、絵里花は少し慌てた。
「それは…!実はその文書を発見した時に、岩城さんはきちんと館長や副館長へ報告して、マスコミにも発表しようとしてたんです。だけど、私が止めました。学会までは秘密にしておくべきだ……って」
「え…っ?!君が?」
館長から凝視されて、絵里花は決まり悪そうに肩をすくめた。