彼がメガネを外したら…。
収蔵庫に上がってみたら、まだ史明は来ていなかった。
今日からはもう、史明の研究を手伝う必要はない。また、もとの古文書の整理の仕事に戻ることになり、来月からはそれも一人でやっていかなくてはならなくなる。
絵里花は深いため息をついて、収蔵庫の隅の壁面を覆う大きな棚のところへ行き、古庄家文書の入っているコンテナを一つ取り出した。
この文書を史明が持ち込んできたときは、史明のことを見た目通りに〝怪しい〟と思っていた。一緒にこの文書の整理を始めたときには、たくさん叱られもした。
その史明にこんなにも恋い焦がれて想い慕うようになるなんて、思いもよらなかった。
言いようのない寂しさと、どうしようもない切なさを持て余して……、絵里花は収蔵庫の棚の陰で、堪えきれず涙をこぼした。
感情が制御できなくなって、涙が次から次へと溢れ出てくる。
今、史明が包み込まれているであろう喜び。それは、絵里花だって望んでいたことだった。その喜びに、水を差すようなことをしてはならない。この涙は、絶対に史明に見られてはならない。
これまでも、詮索をされたり勘ぐられたりしないように、どんなに想いが募って苦しくても、史明の前では平静を装って泣かないように努めてきたつもりだ。