彼がメガネを外したら…。
「……なに、訳の分からないことを言ってるんだ?」
史明は、とてもピュアな心の持ち主。とても真摯に研究に向き合うひたむきな人。だからこそなのかもしれないが、世渡りに関しては下手だと言わざるを得なかった。
だからこそ、そんな部分は絵里花がフォローしてあげなければ。そう思って、絵里花は大胆なことを持ちかけた。
「この史料を調べて分かったことをまとめて、さっき館長が言ってた学会で発表するんです」
真面目な顔をして史明に迫る絵里花を、史明は呆れた顔をして見つめ返した。
「なに、バカなことを言ってるんだ?そんなこと……」
「だったら、私に発表させてください。私でも、地方の小さな研究会くらいだったら、発表させてくれますから。だけどこの文書は、中央の大きな学会で発表すべき価値のあるものじゃないんですか?」
絵里花にそう言われて、史明は少し気色ばんで考え込んだ。
「……だけど、俺は〝あがり症〟で、学会で発表なんかできっこないって言っただろう?」
やっぱり史明は首を横に振って、ため息をついた。
「大丈夫。それは、私に秘策があります。私も手伝いますから、チャレンジしてみましょう」
絵里花の説得にも、史明はその表情に不安を漂わせていたが、しばらく考え込んでからようやく首を縦に振ってくれた。