彼がメガネを外したら…。
大きな杭が打たれたように、絵里花の胸に痛みが走って苦しくなった。
感情の制御ができなくなって、泣くべきではないのに、涙が堰を切ったように溢れ出てくる。
『追い出したい』なんて、思うわけがない。絵里花だって本当は、ずっとずっと死ぬまで史明の側にいたいと思っている。
でも、その想いは口には出せなかった。言葉にできない代わりに、とめどない涙となる。
突然泣き出してしまった絵里花を前に、史明は困惑して立ちすくんでしまう。何故泣いているのか、史明には訊くこともできなければ、推測することもできなかった。
ただ、涙を流している絵里花もとても綺麗で、史明は思わず見入ってしまうばかりだった。
そんな絵里花が、手の甲で涙を拭いながら、震える言葉を絞り出す。
「……出過ぎたことを言ってしまって、申し訳ありません。……だけど、本当の理由を教えてください。もし……自信がなくて怖いのなら、また一緒に……対策……考えましょう……」
ずっと側にいて、ずっと史明を想い続けていた絵里花には、史明が本心を隠していると分かっていた。
そんな絵里花の史明を想うが故の深い思いやりが、史明の胸にも沁みてくる。
「別に、怖いわけじゃない……」
史明はそう言うと、深く息を吐いた。