彼がメガネを外したら…。


「じゃ…、どうして?私は……岩城さんに夢を叶えてほしいって思ってるんです……」


絵里花のその言葉を聞いた史明が、それを飲み下すように天を仰いだ。そして俯くと、片手でメガネを取り、もう片方の手で前髪を掻き乱し、そのまま顔を撫で下ろした。

そこに現れた史明の素顔に、絵里花は泣いていたことも忘れて、思わず息を呑む。絵里花の瞳を捕らえるその唇が、躊躇いを含みながら動いた。


「……本当の理由は、君だ。君がここにいるからだ」


「……え……?」


史明の言っていることの意味が解らず、絵里花の視線が宙を漂う。


「君の側を離れたくない。理由はただそれだけだ」


史明の言葉の意味をきちんと理解したかったけれど、絵里花の思考は動転していて、うまく働いてくれなかった。


史明が全身全霊の勇気を振り絞った告白なのに、直立したまま何も反応ができない絵里花。

そんな絵里花を見て、史明は再び深いため息をついた。


「……すまない。こんな俺にこんなこと言われても、気持ち悪いだけだな……。忘れてくれ」


低い声でそう言うと、絵里花の横をすり抜けて作業用のテーブルへと戻っていく。


——違う、そうじゃないんです!私は岩城さんのことが好きなんです!!


頭の中の絵里花は必死に叫んでいるのに、現実の絵里花は何も反応できなかった。


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