彼がメガネを外したら…。
「俺だって諦めたくはないけど、無理だよ」
「あれこれ迷って御託を並べている暇があったら、先を進めてください!」
全く聞く耳を持たない絵里花に、史明も険しい表情になってくる。
「だったら、どんな研究ができるって言うんだ。ただの史料紹介や報告じゃないんだぞ?無謀だよ。できっこない」
「できっこないかどうかは、やってみなければ分からないでしょう。タイトルなんて当たり障りのないものを、適当に考えて言っておけばいいんです」
「君の言ってることは、無責任だ」
「そう言う岩城さんは、意気地なしです!」
いつしか二人とも感情的になって、大きな声で言い争いを始めていた。そしてここには、それを止めてくれる人は誰もいない。二人の声だけが響き渡っている。
「そういう問題か!?君は……」
と、史明が言いかけたところで、感極まった絵里花の目から涙がポロリと零れて落ちた。
その涙を見て、史明は息を呑む。
泣かせてしまった罪悪感や、なんで泣いているのか分からない驚きよりも、涙によって増幅された絵里花の美しさが、いきなり史明の意識の中に飛び込んできた。
もう気合の入ったメイクはしなくなったとはいえ、やっぱり絵里花は透き通るように綺麗だった。