彼がメガネを外したら…。
史明の目が絵里花に釘付けになり、口をつぐんだので、絵里花も我に返って涙を拭う。
「……とにかく、私が史料に目を通して、楢崎氏に関連しているものは、一日でも早く解読を終わらせますから。岩城さんは研究の方に専念してください。まだ全力を尽くしてません。岩城さんの実力は、こんなものじゃないはずです」
絵里花はそう断言すると、次の継紙(古文書の一形態)を開いて、その文面に目を走らせ始めた。
絵里花はどうして、確信を持ってそう断言できるのだろう……。
史明は、雷に打ち付けられたようにその場に立ちすくみ、そんな絵里花をその分厚いレンズの向こうから見つめ続け……、しばらくそこから動けなかった。
それから絵里花は、黙々とただひたすらに古文書を整理し、解読を進めた。毎日、朝早くに出勤し、夜は遅くまで残って作業に没頭した。
まるでそれが、彼女の存在意義でもあるかのように。そこには〝信念〟が宿っていた。
史明もそんな絵里花を見ていると、『諦める』なんて言えなくなる。絵里花に触発され励まされるように、研究に向き合い、のめり込み始める。
そして、やがて史明は、どうにかしてそれを一つの〝成果〟として結実させたいと思うようになった。