彼がメガネを外したら…。



そんなことを思ってると心が乱れて、自分を制御できなくなる。鉛筆を動かす手は止まり、何も手に付かなくなる。

切なくて切なくて、苦しくてたまらない。たまらず絵里花は、目から涙を溢れさせた。涙は頬を伝い、ポタリと落ちて手元にあった古文書に染み込んでいった。


「……岩城さんに、叱られちゃう……」


ポツリとつぶやいて頬を拭ったけれど、一度堰を切った涙はそう簡単に止められなかった。


こんなにも苦しいのならば、いっそのこと打ち明けてみようかとも思う。でも、絵里花はすぐに、その衝動を押し留めた。

意識のすべてを研究のことで埋め尽くされている史明に打ち明けても、拒絶されるのは目に見えている。
きっと戸惑わせて、困らせる。研究に専念しなければならない史明の支障になりこそすれ、喜びは与えない。それどころか、研究という行為の中に恋愛感情を持ち込むなんて、史明は軽蔑してしまうかもしれない。


それならば、こんな想いを抱えて苦しむよりも、それこそ諦めたらいいのだと思う。望みのない相手に恋するよりも、ちゃんと恋人になってくれそうな人を好きになればいい……。
だけど……、そこまで思いが至ると、絵里花はいっそう涙を溢れさせた。


< 22 / 164 >

この作品をシェア

pagetop