彼がメガネを外したら…。



こんなにも、史明のことが好きになっていたなんで、絵里花自身も気づいていなかった。
この想いを自分から切り離してしまうことを考えただけで、自分が自分でなくなってしまいそうだった。


……だから、こうやって古文書を読むことは、絵里花の想いの証だった。
だから絵里花は、外界の音もしない日の光も射さない、完全空調されたこの閉ざされた空間の中で、たった一人地道な作業を黙々と繰り返した。



昨晩遅く出張から帰って来た史明が、朝早くに出勤する。
清々しい朝の空気に似合わない、相変わらずだらしくなく野暮ったい風貌のまま。史料館の職員専用の入り口から、認証のためのカードキーを使って、専用のエレベーターに乗り、研究室のフロアではなく直接収蔵庫へと向かう。

重い収蔵庫の扉を開けると、普段は消えている照明が煌々と灯っている。さては絵里花が、昨晩消し忘れて帰ったのかと、史明はため息をついた。

絵里花のしてくれている作業の進捗状況を確かめに、作業用のテーブルのところへ行ってみる。
……するとそこには、テーブルに伏せて眠り込んでいる絵里花の姿があった。


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