彼がメガネを外したら…。
思いがけないその姿を見た瞬間、史明は固まった。
昨晩遅くまで解読の作業に当たり、帰宅することなく、きっとそのまま寝入ってしまったのだろう。絵里花はスースーと寝息を立てて、安らかに眠っている。
長いまつ毛、白くて滑らかな頬。無防備なその寝顔は綺麗なだけでなく、とても愛らしくて、この世のものとは思えないほどだった。
外界から閉ざされたこの〝秘密の場所〟ともいえる収蔵庫の中。この寝顔を見ていられるのは、史明ただ一人だけ。絵里花の存在は、ここに大事に保管されている、まさに宝物のようだった。
その時、史明の気配に気づいた絵里花が、ふと目を覚ます。無意識に顔を上げると、そこに立ちすくんでいた史明と目が合った。まるで〝不審者〟といった風貌の史明に、驚いた絵里花が固まる。
それと同時に、我を忘れて絵里花を見つめていた史明も、ハッとして我に返った。
「……文書の上で突っ伏して寝てるなんて、君はやっぱり非常識だな。文書が破損したらどうするんだ?」
史明はぎこちなく目を逸らすと、以前と同じような辛辣な言葉がその口から飛び出してきた。それは覿面に、まだ寝ぼけている絵里花の目覚ましとなった。綺麗な顔をしかめてみせて、史明に言い返す。