彼がメガネを外したら…。
「おあいにくですが、破損なんてさせてません!」
「……よだれが垂れてるぞ」
「……えっ?!よだれ?」
史明の指摘に、絵里花は顔色を変えてとっさに口元を拭った。だが、どこも濡れてないし、文書にシミもできていない。
史明が嘘を言ってると気づいた絵里花が、いっそう眉間に皺を寄せて史明を睨む……と思いきや、その一瞬後に、息を抜いてにっこりと花の咲くように笑った。
その笑顔に心を奪われた史明が、思わず釣られて唇に笑みを浮かべる。
絵里花はその表情を一目見て、心の中でハッと息を呑んだ。史明のその微妙な変化を見れただけで、胸がキュンと高鳴ってしまう。
ドキドキする胸の鼓動を伴いながら、それをなだめるように、絵里花は再び手元の古文書へと目を落とした。けれども、そこにある文字は、しばらく絵里花の目に映っていなかった。