彼がメガネを外したら…。
未知の城
それからの毎日も、それまでの毎日と変わらなかった。
必死で古文書を分類し解読する絵里花。その解読したものを読み下し文になおし、研究の糸口を見つけ出そうと必死な史明。
無駄口なんて利く暇さえない。静寂が漂う収蔵庫の中で、古紙の擦れる音とお互いの息遣いだけが響く。
「うん?ここは……?」
時折、史明の方から沈黙が破られる。すると、決まって絵里花はビクッと体をすくませた。
恋い慕う史明から声をかけられてドキドキする……そんな甘い感覚ではない。
「読み間違えてないか?……意味が通らない」
史明に指摘されて、絵里花は焦って元文書を確認する。すると、史明の読みの通り、間違えていることが多かった。
どんなに些細な点でも見逃さない史明の眼力の鋭さ、解釈能力の高さ、そして厳格ともいえるその研究姿勢は、絵里花の想像も及ばないものだった。
「元文書が手元にあるからいいようなものだけど、よその史料館にある文書だとこう簡単にはいかない。だから、解読する人間は細心の注意を払ってくれないと困る」
そこには自分の研究を手伝ってくれているという感謝の念や遠慮などはなく、ただ研究者としての信念があるだけだった。