彼がメガネを外したら…。
それでも、史明と二人で仕事をするようになってから、絵里花の古文書を扱う技術や解読する能力も飛躍的に向上することができた。
史明が優しかったら、ダメだったと思う。これまでの人生、その容姿のせいでチヤホヤされ、見せかけの優しさに慣れてしまっていた絵里花には、史明の辛辣で厳しい言葉の方が心に響いた。
そんなある日のこと、いつもにも増して、史明の史料を見る目が鋭くなった。
……というのは比喩で、絵里花にはビン底メガネの向こうの眼光は確かめられなかったが、明らかに〝何か〟を追い求め始めたのは、側にいてすぐに分かった。
「こっちにあるのは、まだ解読してない文書?」
「はい。楢崎氏関係の抽出してるものが右の箱で、それ以外のものは、左側のたくさんある方です」
「そうか……」
史明は確認すると、右の箱の文書を開いては、ものすごい勢いで読み始めた。走り読みでも、その内容が読み取れているのだろうか。
――あれなら、私がわざわざ解読なんてする必要もないのかも……。
話しかけることさえ許されないようなオーラを感じ取って、絵里花が息を潜めて様子を窺っていると、史明は3通ほどの古文書を絵里花のもとへと持ってきた。