彼がメガネを外したら…。
「こっちの文書を、先に解読して」
絵里花は神妙な顔で、うなずいた。この緊迫した状況で、失敗は許されないと思った。
その間も、史明は抽出に漏れた大量の古文書の方も、一つひとつ開いて確認を始めた。
絵里花も3通の古文書を慎重に解読して、それらに共通することに気がついた。
「……磐牟礼城(いわむれじょう)というお城……」
絵里花が思わずつぶやくと、史明は文書から目を離さずに相づちを打つ。
「君は、磐牟礼城って聞いたことあるか?」
「いえ……」
絵里花はとっさに首を横に振った。聞いたことがあるどころか、近世のお城がどこにあったかも怪しいのに、中世の小さな城のことなんて知っているはずもなかった。
「そうだろう?俺も聞いたこともない城の名前だよ」
それを聞いて、自分の無知を史明に知られずに済んで、絵里花はホッと胸をなでおろす。
しかし、興奮気味に史明が続けて言ったことを聞いて、息を呑んだ。
「『牟礼』って言うからには山の上にあった城なんだろうけど。もしかして、今まで存在を知られていない城かもしれない」
「……えっ!?」
絵里花の驚く顔を、史明も文書から目を上げて確かめる。
「ちゃんと確認したいから、階下の史料館の蔵書の中から楢崎氏の城に関する文献を見つけてきてくれないか」
「はい……!」