彼がメガネを外したら…。
絵里花はすぐさま立ち上がり、収蔵庫を走り出た。
もし〝知られていない城〟だったならば、このこと自体も大騒ぎするほどの大発見になる。
エレベーターのボタンを押す絵里花の指も震えていた。それほど、興奮する史明の心と共鳴して、絵里花の心も逸っていた。
絵里花は史料館の蔵書だけでなく、県立図書館に所蔵されている学術雑誌の類までかき集めて来て、史明と一緒なって『磐牟礼城』に関する記述を探した。
いろいろ手を尽くして探しても、『磐牟礼城』に関する記述は見つからない。けれども、史明と絵里花の手元にある古文書には、しっかりと『磐牟礼城』と書かれた文字がある。
「これは……、本当に今まで存在を知られてなかった城……?」
その日の就業時間も過ぎた頃、方々調べ尽くした絵里花がつぶやいた。すると、それを肯定するかのように、史明は視線を合わせた。
「でも、文書に書いてあるだけじゃ、ただの〝まぼろし〟なんだよ。実際、どこにあったのか比定できないと、研究として意味はなさない」
その可能性を見出した時には、あれだけ興奮気味だった史明が、極めて冷静な声でその現実を絵里花に示した。
絵里花も、すっかり高揚してしまっていた気持ちを消沈させる。